アニメーション映画「selector destructed WIXOSS」レビュー
2014年に本作のテレビシリーズが放送された。劇場版は総集編と新規ストーリーを織り交ぜた新解釈版、つまりパラレルワールドの物語として作られた。
私は第1週に観に行ったので、その時の入場者特典はキャラデザ・坂井久太さん書き下ろしのミニ色紙とウィクロスカードだった。同時に写っているのは主題歌「Love your enemies」のアーティスト盤CD。
マナー
本編上映前にはマナームービーとして、“ウィクロス”のキャラクター達の登場するアニメーションが放映された。こちらは完全にギャグ。
総集編 – “infected”
本編では冒頭から新キャラである『幸』や ウリスの幼少時代の『留未』が登場する。続けて『“たちばな”るう子』の複雑な家庭環境がクローズアップされた後、『繭』のモノローグによってテレビシリーズの総集部分へとつながる。
総集編部分、特にテレビシリーズ1期の部分は退屈だった。非常に悪く言えばPVを有料で見せられている感じ。繭やウリスのセレクター“解説”では作品に没頭する事が難しく感じるかもしれない。特にテレビシリーズを既に視聴しているユーザーの立場では。
総集編 – “spread”
ところがその退屈はテレビシリーズ2期部分から断続的に挿入され始める、不穏感が増した新規カットにによって不安感に変貌する。「自分はテレビシリーズを見ているから安心」という観客感覚の視聴者を無理やり物語に対峙させる構図で、すごい怖い。
今作の最大の注目すべき要素は、テレビシリーズでは見られたギャグを徹底的に排除した点。各キャラの尖った部分を一層先鋭化させている。唯一ギャグと言えるのが幸と病室を同じくするおばさんくらいで、あの「アキラッキー」にすら戦慄を覚えるような内容だ。晶といえば忍者ばりの身体能力を備えていることでも人気だが、残念ながら映画では拝見できなかった。
はっきり表現されたラストのタマ
テレビシリーズでは思わせぶりだった 最終回で貯水槽上に座る『タマ』。果たしてタマは人間になれたのか、るう子と再会できたのか。劇場版ではその疑問を抱く必要は無い。
本編終了間近の、るう子がタマを貯水槽の上に発見したシーン。こちらはテレビシリーズを含めて評価しても、最もゾクゾク、最も感動的な場面だった。テレビシリーズを視聴した方なら誰でも興奮を覚えるはず。
『留未』『幸』エンド
個人的に最も衝撃的で恐怖を感じたのはラスト数分。『留未』(ウリス)の幼馴染である『幸』は、幼少時に留未と離れ離れとなってしまう。この時すでに異様な執着心が芽生えていたのかもしれない。中学生になった幸は留未同様セレクターバトルを行い夢限少女となり留未と永久に共にいることを願う。
本作本編中にるう子に敗北したウリス(留未)は、やはり謎の虚無空間に閉じ込められる。そこにやって来たのが、幸であった……。
個人的に今回の映画で一番恐ろしく感じた展開が幸と留未の百合エンド。彼女らはこの後、虚無空間にて永久に(全裸で)抱き合って過ごす日常が待っているのだろう。最後の黒の幕が剥がれる直前の留未の表情は正に恐怖一色に見えた。
観覧後に冒頭部分を振り返るといくつかの伏線が張られていたことに気付く。横断歩道を渡る(across)ことをWIXOSS(wish+across)を行うことと見てから幸の発言の「辛くなっちゃうの嫌」を考えれば、セレクターとなりバトルをすることで不幸になる暗喩である気する。また、留未が自らから離れていくことを「棒を抜く」だと見ると、“留未から離れて辛くなりたくない”という暗示でもあるような気もする。
さらに、幼少のるう子と幸の会話で「タマ」を連呼するシーンがあった。「じゃああなた『タマ』ね」と言ったのが幸である事や、“るう子”が“幸”と共に「タマ」を連呼した事など、象徴的なシーンに思えるがその伏線は作品内で回収されていただろうか。
ばとるー
繭に辿り着きウリスを成敗するまでの流れは非常にスムーズで、「えっこれで終わり?」と感じてしまった。キャラの掘り下げはあまり行われず、テレビシリーズでの主要キャラでも登場シーンが少なくなってしまった点はやや残念。
音響、音楽、挿入歌、主題歌
音響は最高でした。5.1chサラウンドに加えて迫力のある大音量。のみならずテレビシリーズから変わらない音響効果によって心臓が締め付けられる。音響や音楽が絵以上にプッシュされているシーンもあり気合の入り方がハンパない。
挿入歌はテレビシリーズから引き続きCyuaさん。Cyuaさんは作中BGMでコーラスも担当したよう。そして主題歌は分島花音さん。劇場で聴かれることを前提として壮大なオーケストラを曲全般に導入したらしい。
終わりに
作品の人気も限定的なもので社会的影響は大きくないと見て単なる感想記事とした。はっきり言って本作のジャンルは「サイコホラー」。得られるものは多くないし積極的に見ることを勧めない。しかし脚本の岡田さんの脳内はこのような物語で埋め尽くされているのかと思うと……。
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